毎年9月下旬は「秋の全国交通安全運動」が実施される。この期間中、自動車やバイクなどの安全運転を周知徹底する趣旨に異論はないとしても、取り締まりの方法などに納得のいかないドライバーやライダーも少なくないことだろう。
点数6点未満の交通違反で取り締まりを受ければ、警察官から青キップ(交通反則告知書)を渡され、交通事件原票への署名とともに左手人差し指の指紋(拇印)を押すよう求められる。
では、交通違反として検挙されたことに不服があるなどの理由で、交通事件原票に指紋を押すことを拒むことはできるのか。
「明るい警察を実現する全国ネットワーク」代表の清水勉弁護士は「拒否できる」と話す。
「指紋の押捺を強制できる場面は、法律で規定されている。逮捕された際、本人特定の目的での指紋押捺が、警察で強制できる唯一の場面。それ以外は、相手の同意に基づいて求めていることになる。そのため、断ることもできる」(清水弁護士)
何か後ろめたい過去があるわけではないものの、個人識別情報である指紋を他人に預けることに抵抗を感じる人、抵抗はないが漠然とした気持ち悪さを感じる人、様々な反応がありうる。
それでも「交通事件原票の指紋は警察内で厳密に管理されているわけではないため、他の目的に転用される可能性はまずない」と清水弁護士は話す。
では、逮捕したわけでもない青キップ対象者に、指紋を押させる必要性や許容性はあるか。
「たしかに指紋は個人認証手段の一種だが、免許証の写真と本人の顔がほぼ似ていると現場の警察官が判断すれば、目視で本人識別をしているわけだから、署名だけで問題はない。交通違反での指紋は、個人識別よりむしろ、心理的な面の目的が大きいのではないか。もし、ドライバーと警察官が互いに指紋を押し合い、本人であることを確認し合うのなら、対等の関係だといえるかもしれないが、警察官が指紋を押さない以上、対等とはいえない状況である。一方的に指紋を押させられる立場では、どうしても警察に頭を下げている感じが拭えない」(同)
強制することが法律上許されず、相手の同意がなければ行えない手続きは数多い。だが、事実上のプレッシャーを与えて同意を取ってしまうことは、警察官にとってお手のもののようだ。
「いかにも法的根拠があるように『指紋を採らせてもらう決まりになってます』と、巧い頼み方をする警察官も多い。『決まり』と言われると、法的義務かと錯覚するが、これは警察組織内で現場の警察官が上司から言われているだけのことだ。それでも拒むと、『協力してもらえなければ、家族の方にも連絡することになる』などと言いくるめようとする場合もある」(同)
組織の決まりに従順な警察官は、指紋が採れるまで延々と説得を続けるかもしれない。では、指紋押捺をうまく拒む方法はないのだろうか。
「警察官が『決まりだから』と言ったら、『法的根拠を教えてください』と言う。警察官は答えられない。『自筆署名か認印でもいいんじゃないですか』と聞く。『いい』と言われれば、これでおしまい。『ダメ』と言われたら、『法的根拠がなければ、強制できませんよね』と断わる」(同)
「対応がしつこいか、サバサバしているかは、警察官個人の資質の問題。できる警察官は同意が取れなければ速やかに退いてくれるが、ひどい警察官になると、一方的に転んでおきながら『オマエ、突き飛ばしたな』と言いがかりをつけ、公務執行妨害で逮捕して指紋を採ろうとすることも考えられる。クルマの場合は、ドアを開けて降りないことも大切。また、車内に三文判を備えておき、違反で捕まった場合に指紋代わりに押す手もある。指紋と違って警察官と対等な関係を維持できる」(同)
※すべて雑誌掲載当時
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